国立国会図書館・東京都立中央図書館および煎茶家元高取友仙窟氏等において、煎茶会図録を中心に煎茶に関する文献史料を調査・収集した。そして、史料の書誌学的分析を行なったうえで、史料に掲載された各種煎茶席の挿図について、床・棚等の座敷飾りや、建具・窓・高欄等の意匠内容を中心に分析した。その結果、煎茶席の時代的特質として、19世紀初頭までは煎茶席としての建築的独自性を見出せないこと、文政以降に中国風意匠を導入した煎茶特有の建築空間が成立したこと、明治から大正期にかけて、京都・大阪・東京を中心に骨董商や香具商の先行追薦のための大煎茶会が開催され、書画展観席・盆栽陳列席・酒飯席など使用目的に合わせた単独の席が多数用意されたことなどを明らかにした。一方、煎茶席遺構として、京都の富岡鉄斎旧居内にある七畳煎茶席(江戸後期建設、明治中期改造)・無量寿仏堂(明治中期建設、大正期改造)、および大分県竹田市の旧竹田荘内にある主屋二階十畳(寛政2年建設)・草際吟舎(昭和8年復興)を実測調査し、その実測図を作成するとともに、平面計画・寸法計画・意匠計画を分析した。その結果、富岡鉄斎旧居においては、もともと瓦敷土間の離屋であった七畳煎茶席が真々制で平面寸法が計画されているのを除けば、近世住宅建築の設計手法である畳割や木割を基本とする寸法計画で設計されていることを明らかにした。また、旧竹田荘においても、同様の寸法計画であること、意匠計画では中国風意匠よりもむしろ数寄屋風意匠が用いられていること、そしてこれらの特色が昭和8年の改造および復興によるもので、当初の状態を必ずしも忠実に伝えていない可能性があることを明らかにした。
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