本研究は、京都の旧市街地において特に洋風意匠を内外に持つ近代町家を取り上げ、初年度は、予備的な悉皆調査を経て33棟を選び家屋調査を実施した。その結果、洋風町家は、家屋構成の特徴から看板型・洋館付設型・洋館連結型・完全洋館型の4種に大別することで、これらの特徴を整理した。看板型や完全洋館型は、軒切りや隅切りなどにより成立したものが多いこともわかった。隅切りによる三角敷地など、近代都市に特有の変形宅地に応ずる新たな家屋形式の表現として洋風意匠は用いられた。洋風意匠を内外に積極的に摂取した近代町家は、その基本は京町家の伝統形式に則り、同時に、立地条件や防火など近代都市の新たな要請に対応することで成立したことを、遺構に即して明らかにした。次年度は、大正〜昭和初期に道路拡幅され、当時の住宅建築を多く残す河原町通りを取り上げた。同通りは東側にある鴨川に沿って走っているために、他の拡幅された通りとは異なり、斜に拡幅された範囲が広いなど特異である。そこで、大正から昭和初期に建てられた町家形式の特質を、成立過程を含めて検討するとともに、河原町通りの拡築の経緯を可能な限り明らかにすることで、町家と敷地への影響について検討した。その結果、道路拡築が同通りの特に西側宅地の規模や形状を著しく改編し、町家の家屋形式にも建物の表裏が逆転するなど、大きな影響を与えたことを事例的に明らかした。さらに拡張整備により中州状の街区が形成されるなど、他の通りでは見られない、河原町通特有の景観が生み出された経緯を明らかにした。
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