研究概要 |
本年度は初年度でもあり,中井家に保管されている建築指図の現状を把握するため,東京の中井家を訪れて簡単な破損状況のチェックを行い,併せて仮目録の作成を行った。中井家では明治時代の当主が指図の整理を行ったようで,包紙に朱の番号が付されていた。そこでこの番号を手がかりにしてまとめたところ,第1号から第181号までほとんど欠けることなく残存していることが判明した。また,番号が付されていない番外の指図が,新たに86点確認できた。最終的には,指図や絵図を合わせて約580点にのぼった。 つぎに、番号順に採寸と破損確認の調書を取り,写真撮影を行った。保存用として,モノクロ写真(4×5,6×9,35ミリ)とカラー写真(4×5ポジ,6×9ポジ,35ミリ・ネガ)を撮り,その他に部分撮影(カラー35ミリ・ネガ)を行った。今年度内に,全点数の半数程度の撮影を終えることができた。また指図名称と寸法,縮尺率,作図分類,破損状況などは,一覧表にしてまとめている。 指図の建築別分類は,城郭,禁裏,寺院,神社,数寄屋,役宅などで,他に町割図や地図,あるいは土木構築物の絵図などがある。これらはいずれも江戸時代の中井役所の職能に対応したものである。指図の種類は,平面図が大半を占め,少数ながら建地割図や詳細図もあった。また数寄屋はすべて起絵図であった。指図の技法は,箆書きの方角グリッドの上に,古いものでは色紙に描いた平面図を貼り付けたいわゆる貼絵図形式で,新しいものでは書絵図形式になっている。珍しいところでは,鳥瞰図的に描かれた境内絵図があった。最古のものは,現在のところ慶長年間の名古屋城指図で,そのほか寛永年間の指図も一定数ある。しかし大半は17世紀末から18世紀前半の作成になるものである。
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