わが国の一般の木造建築は、特に第2次世界大戦後きわめて寿命の短いものとして扱われてきた。しかし、木造建築は適切に維持管理されれば、その寿命を世代にわたって長らえることができる。この維持管理のプログラムをもっとも端的に示すのが、各国で修復保存されている伝統的な建築遺産である。この研究で対象とするのは、木を建築の主要な材料として用いている日本、ネパール、カナダ、ノルウェーの伝統的建築で、その修復技法、修復のプログラムである。これらを相互比較し、その中から共通するもの、独自に進めるものを抽出して、今後の方向を導き出す参考に資するのが、この研究の目的である。 平成12年度では、ノルウェイにおいて既に実施された修復計画から、具体的な保存対策をビルゲン、各地のステーブ・チャーチの事例に関する資料を採取、整理した。北欧の建築に対する文化条件については、札幌の研究者に聞取りした。冬季の建築への厳しい負荷は、カナダの場合と同様問題で、わが国では最も自然条件が近い札幌近辺の事例を同時に調査した。 我国との相違は、建築物を修復する技術ばかりでなく、保存後の位置づけ、さらには有効な利用法において顕著に見られるので、我国の建築遺産の活用について住文化の伝統を伝える、近江八幡・彦根の現状も調査した。また、最も極端な形の一種の保存として、遺跡の上に建物を復原した事例を平城宮朱雀門に、具体的な手法を含めて求めた。 その上で、自然条件、文化的な伝統と保存のプログラムの相関は、幅広く網をかけ、多くの段階の修復を認めるカナダアルバータ州、真摯に保存修復するとともに、保存、再生、活用、さらに新しい建築への意匠に伝統のエキスを求めるノルウェイ、プログラムを外国チームが開発しているネパール、そして保存修復の伝統が文化財に限定され、幅広い手法、プログラムがまだ不足しているわが国、と修復のプログラムを比較することができた。
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