昨年度行った作業は、以下の通りである。 (1)文献調査;鎌倉時代から室町時代前期にかけての住宅資料図書を補充し、鎌倉時代の武士住宅の施設構成を検討した。また、論文のまとめの利便性を考えて『史料総覧』および『国史大系』33巻を購入した。 (2)絵画史料の検討;絵画史料の検討から、鎌倉時代から室町時代中期までの各階層の住宅建築の構造を検討し、基礎構造の違いと社会階層および建物の機能の関係を検討した。これにより中世前期には、礎石・掘立・土台の3種類の基礎構造をもつ建物が使い分けられ、それに社会的階層性が表出していることを見いだした。 (3)発掘資料の調査;当該期の武家住宅遺構の発掘調査例を、前年度に購入した調査報告書から検討し、その分布と構造形式などの変化を検討した。それによれば、多くの武士住宅は中世を通じて掘立柱であるが、一部の上層武家住宅が鎌倉中期から礎石建となり、主殿へと発展することが確認され、上述の文献および絵画史料の検討結果と整合するものであった。 (4)成果の発表;上以上の作業から、中世前期の武士住宅は掘立柱建物からしだいに礎石建もしくは土台建ての建物に変化していることを確認し、このことを軸として鎌倉時代の武士住宅の実態とその変遷を論文化した。これは現在、学会誌に投稿すべく最終校正にかかっており、かつ前年度までの既発表論文と合わせて、今月中に日本学術振興会に提出する成果報告書に掲載することとする。
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