本研究は、鎌倉時代を中心とする中世前期の住宅遺構を検討し、書院造りと呼ばれるわが国の代表的な住宅様式の初期の形成過程を明らかにすることを目的としている。そこで、まず武士住宅の具体的な姿を検討するために、鎌倉時代の執権と連署の邸宅を検討し、それらが都市鎌倉の中心部に東西に並んで存在していたことを明らかにした。これが本報告書の第2部である。ついで執権以下の上層の武家住宅の施設構成を検討し、それが将軍御所と似ており、貴族住宅や寺家住宅と差異をもつことを明らかにした。そして絵画史料と発掘資料から、それら支配者階級の住宅が、礎石、掘立柱、土台の3種類の基礎構造に分かれ、その違いが社会階層と建物の機能に関係していることを見いだした。これが本報告書の第3部である。研究経過としては最後に、以上の武家住宅の検討に加えて、同時期の貴族住宅と寺家住宅の中層住宅を検討し、中世前期に住宅建築がどのように変容したかを総合的に検討した。これによって、近世の書院造りの住宅の中心的建物である主殿が、13世紀後期から14世紀前期に形成されたことを明らかにした。しかも、その形成過程は、従来の研究の中心的な対象であった上層の住宅ではなく、研究が遅れていた中層住宅、具体的にいえば中流以下の公家住宅と官人住居、院家以下の僧侶の住居、執権以下の上層御家人住宅、地頭や名主などの一般武家住居が、その中心であったことが確認された。これは、従来の中世住宅史の見直しを迫る成果であり、これが本報告書の第1部に掲載した論文である。
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