建物の保存にあたって近年新たな課題となっている点のひとつは、保存と町づくりを目的とする歴史的な建物の活用の重視である。とくに、もともと使用頻度が高く大規模な近代建築や近代化遺産、そして、住まいとしての住宅建築など、それらの保存をはかるためには建物を使い続けることが不可欠であり、何らかの用途が必要となる。その際に現代の社会生活や社会基盤の変化にともない、構造上の安全の確保、用途の変更や使用しやすくするための建物の部分的な改変、設備類の新たな設置、施設の増設などが求められる。 ただし、これらの変更にあたっては、建物の文化財的な価値をできるだけ損なわないことが前提となる。保存修復は基本理念を失うことなく、それにもとづいた適切な保存修復がなされなければならない。 本研究は、活用をともなう修復を対象にして、あらためて歴史的な建物の基本的な保存理念を整理・確認するとともに、これまで修復されてきた建物の事例を具体的に施工方針にまで及んで分析しながら、保存修復のあり方の指針を示すものである。歴史的な建物のふさわしい活用に対応する適切な保存修復の普及をめざすために、指針が必要であり、その案を示した。
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