研究概要 |
ほとんどの形状記憶合金は長範囲規則構造を有する金属間化合物である。これらの合金におけるマルテンサイト変態は変態ヒステリシスが大きく、TiNi合金では数10℃にもなる場合がある。一方、In-Tl・Mn-Cu合金の様な不規則合金でも形状記憶効果を示す場合がある。これらの合金のマルテンサイト変態は弱い1次型であり、その変態ヒステリシスは多結晶でもせいぜい数℃と非常に小さく,精密なアクチュエーションの制御を要求される用途に適していると思われる。 Mn-Cu合金は高温ではfccの固溶体(γ相)を形成し,急冷するとfctへとマルテンサイト変態する。この変態は反強磁性転移に密度に関連していることが指摘されている。また,急冷で凍結された準安定γ相において、溶解度ギャップ内の組成・温度域で等温時効すると、Mn濃度の異なる2相へ分解する。この相分解は溶解度ギャップの充分内側では、スピノーダル分解によって起こる。本研究ではMn-Cu合金γ相のマルテンサイト変態挙動・形状記憶効果とスピノーダル分解との関係について調べた。その結果、673Kで約4万秒の時効により,変態温度の上昇に伴い形状記憶回復率が2倍程度になることがわかった。さらに2方向形状記憶効果においても同等に改善される事が分かった。X線回折により格子定数の温度依存を調べたところ,形状記憶効果の改善は変態温度の上昇による格子定数の変化で説明できることが分かった。可逆形状記憶効果の改善の理由については明らかではないが,構造がfccに逆変態した後も,Mn濃縮領域に於いて反強磁性スピン配列が残存している為では無いかと推測される。現在この点を明らかにするためにさらに実験を進めている。
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