fcc不規則固溶体であるMnCu合金γ相は冷却によりfctへとマルテンサイト変態する。この変態は弱い1次変態であり、ヒステリシスが数Kと非常に小さいため精密なアクチュエーションが要求される応用に適していると考えられる。このγ相MnCu合金は準安定状態であり、700K前後の温度域で等温時効するとスピノーダル分解することが知られている。本研究ではこの等温時効がマルテンサイト変態挙動および形状記憶工科に与える影響を調べた。 Mn-15at%Cu合金のインゴットを高周波溶解炉またはアーク炉で作製し、0.2mm厚まで熱間・冷間圧延後、均質化処理(1173K)したものを試料とした。等温時効はソルトバスを用いて673Kで最大10^5秒まで行った。マルテンサイト変態温度はDSC・電気抵抗測定で行った。格子定数の変化を試料冷却ステージ付きX線回折装置で測定した。 形状記憶特性は以下の様にして測定した。15mm径のセラミック円筒に試料を拘束した状態で1173Kで30分熱処理後水焼入れした。その試料を室温で変形して平板状にした後(歪0.7%に相当)493Kまで加熱冷却し形状変化を観測した。 その結果、以下の様な結果が得られた。 1)マルテンサイト変態温度は673Kでの等温時効により大きく上昇した。この変態温度変化は残留電気抵抗値の減少と比例関係を示した。両者の相関はスピノーダル分解によるMn濃化領域の形成を考慮した熱力学モデルで説明できることがわかった。 2)等温時効前の試料では歪の回復率は約30%だったが、10^4秒の時効により50%まで向上した。また、時効後の試料は30%程度の2方向形状記憶効果を示した。この挙動はMn濃化領域においてfccに逆変態後もMn原子の反強磁性スピン配列が残存することで説明できる。
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