Fe-Niインバー合金は常温付近で非常に低い熱膨張率を示すため、高密度カラーブラウン管のシャドーマスクなど多方面への応用が重視されてきているが、その低熱膨張の原因が遷移金属合金のバンド強磁性に深く関係していることから多くの研究がなされてきた。この合金には本質的に組成のゆらぎが存在し磁気特性に影響を及ぼすとされているので、実験結果と理論との直接的な比較を可能とするよう、本研究ではメカニカルアロイングにより合金試料を作成し、幅広い組成分布を実現した。このような合金試料についてキュリー点、磁化率、飽和磁化などを測定した結果、組成分布の幅が広がるに連れてキュリー点および飽和磁化はいったん下降し、極小値に達してから上昇し、磁化率はいったん増加し極大値に達してから減少して行くことがわかった。組成分布のし方としてガウス分布を仮定し、分布の幅が無限小の場合、すなわち合金が理想的に均一な場合の磁気特性を決定することができた。 つぎに、高エネルギーイオン照射を行うことにより、組成のゆらぎの幅をさらに変化させることができるのではないかと考え、2-3GeV領域のエネルギーを持つTaおよびXeイオンをメカニカルアロイングにより作成した試料に照射し、磁気特性の変化を調べた。その結果、飽和磁化は照射により減少するが、キュリー点は上昇することがわかった。また、高エネルギーイオン照射の影響は組成のゆらぎの幅が狭い場合についても、広い場合についても同じ傾向であることもわかった。この結果から、高エネルギーイオン照射は試料中に、組成のゆらぎとは違った別の新しい構造的変化を導入していると考えられる。
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