Fe-Niインバー合金はNiの組成が35at%付近の合金であり、室温で熱膨張率が非常に小さいため、多方面への応用が重視されているが、磁気的性質においても多くの異常な性質を持つことで知られている。また、応用面だけでなく、インバー合金の磁性は金属強磁性の発生の基本的原因に対して重要な位置を占めており、この分野からの研究も数多く行われている。しかし、この合金には本質的に組成のゆらぎが存在し、磁気特性に影響を及ぼすことがわかっているが、人工的に組成のゆらぎを変化させて磁気特性を調べる研究はこれまでにあまり行われていない。本研究では組成のゆらぎを大きくする方法としてメカニカルアロイングを採用し、試料作成後、400-1000℃の範囲で熱処理することにより、通常の溶解法で作成する場合よりはるかに広い組成のゆらぎの幅を持つ合金を作成し、キュリー点、磁化率、磁化曲線などを測定してきた。今回、組成がfccとbcc相の境界により近いFe-30.9at%Niインバー合金を作成し、その磁性を調べた。その結果はインバー組成の合金と同じく、キュリー点は組成のゆらぎが大きくなるに連れて最初少し減少し、最小値を取った後、大きく上昇して行くことがわかった。また、飽和磁化もいつたん減少し、最小値を取った後、増加し、高磁場磁化率は少し上昇し、最大値を示した後、下降して行くことがわかった。この様な組成のゆらぎに対する磁性の変化は、ゆらぎをガウス分布と仮定して非常によく説明できることがわかった。また、Fe-Niインバー合金について高エネルギーイオン照射を行い、その前後での磁性の変化を調べた。その結果、イオンの通過した部分のみキュリー点が100°ほど大きく上昇することがわかった。この結果はナノスケールの磁気記憶素子への応用を含めて興味が持たれる。
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