研究概要 |
スパッタリング法で作製した反強磁性NiMn合金と強磁性金属からなる人工格子は、良好な結晶配向性を示し、界面における強い磁気的結合に由来すると考えられる特異な磁性を示すことを、昨年度までに明らかにした。また、超高真空蒸着法を用い、単原子層に相当する厚さ2ÅのMnとNiの交互蒸着層と、fcc-NiあるいはCoからなる一軸配向性エピタキシャル人工格子膜が作製できることを明らかにしてきた。今年度は、Mn/Ni交互蒸着層の組成を制御した試料の作製について検討した。まず、NiおよびMnの厚さが3ML(monolayer)以下の短周期多層膜をAu(111)下地層上に作製し、X線回折およびTEMによる構造評価とRBS法による組成分析を行った。[Ni(2Å)/Mn(2Å)]_<25>多層膜を作製して得られるfcc[111]一軸配向膜の(111)面間隔d=2.119Åを、単原子層の厚さ(1ML)と定義した。つまり、この値に対応する格子定数をもつfcc-Niとfcc-Mnの(111)原子面を単原子層とみなし、水晶振動子膜厚計の膜厚表示値2Åが単原子層となるような密度の値を膜厚計に入力した。作製した試料の格子定数は、全組成範囲でバルクのfcc Ni-Mn合金の値とほぼ対応しており、組成も数at.%の誤差範囲内で制御できていることが判明した。また、Ni/Mn短周期多層膜はAu(111)下地層上にエピタキシャル成長しており、ミスフィットが大きいためかなり多量の転位を含む構造となっている。上記の条件で作製したNi(0.5ML)/Mn(1.5ML),Ni(1ML)/Mn(1ML),およびNi(1.5ML)/Mn(0.5ML)交互蒸着層と膜厚50ÅのCo層からなる人工格子膜を作製した。Ni/Mn交互蒸着層の厚さが12-40Åの試料では、fcc[111]一軸配向性のエピタキシャル人工格子が生成されることが判明した。また、磁気的性質も測定し、研究結果をとりまとめた。
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