ニッケル中に導入した点欠陥集合体の高温での移動合体過程を解析するため、(111)面上に三角形状の原子空孔集合体を4個導入し、MDシミュレーションを行った。結晶モデルは1辺が10 a_0(a_0=0.352nm)のサイズで周期的境界条件を満足している。本研究では原子空孔集合体の移動は蒸発によって原子空孔が1個1個分解して移動していくのではなく集合体として移動することがわかっている。その過程として、原子空孔集合体で部分的にみると3個の原子空孔からなる積層欠陥四面体構造になり、その内部に落ち込んだ原子が四面体の頂点に移動することで全体として原子空孔集合体が移動する機構、(110)の方向に沿って原子が移動することで全体として原子空孔集合体が移動する機構の他に、部分的にみると八面体構造となり、その内部に原子が落ち込んだ後、八面体の頂点に移動することで全体として原子空孔集合体が移動する機構が観察された。ニッケルでの移動の活性化エネルギーの値は点欠陥ではE_m=1.13eVで、小さい原子空孔集合体では0.4eVであった。17個の原子空孔からなる原子空孔集合体と点欠陥との結合エネルギーはE_b=0.8eVであるため、原子空孔1個が原子空孔集合体から蒸発するために必要なエネルギーはE_m+E_b=1.93eVとなりこのことからも1個づつ原子空孔が分解することはないと考えられる。また、ニッケルでは、5個以上100個までの原子空孔集合体の形成エネルギーを三角形状、ボイド構造、積層欠陥四面体構造について計算するとボイド構造が最も低くエネルギー的に安定であることがわかった。100個から136個ではボイド構造と積層欠陥四面体構造とはほぼ同じ値となった。三角形状の原子空孔集合体では100個以上では構造緩和をおこした。
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