研究概要 |
次世代のエレクトロニクス材料(スピントロニクス材料)として期待されている磁性半導体について,磁性半導体のスピン伝導を精密に制御する新規な手法を提案し,実現することを目標に研究を実施した。そこでまず,室温で高いスピン偏極をもつ磁性半導体として酸化物に注目し,新規な酸化物磁性半導体としてヘマタイト-イルメナイト固溶体薄膜の可能性を検討した。ヘマタイト-イルメナイト固溶体には,秩序無秩序転移やFe^<2+>/Fe^<3+>の混合原子価状態など制御すべき因子が多く,優れた磁性半導体特性を示す固溶体薄膜を再現性良く得ることは非常に困難であった。しかし,ヘリコンスパッタ法により成膜時の酸素分圧および基板温度を厳密に制御することで,固溶体薄膜が再現性良く成長する条件を見出し,室温での磁気抵抗効果など磁性半導体としての特徴的な物性をはじめて観測することに成功した。さらに,反強磁性体であるエピタキシャルヘマタイト薄膜が特異的に持りスピンフリップ転移を利用し,強磁性体の磁気構造を制御することを試みた。すなわちヘマタイトを反強磁性体層とする反強磁性体/強磁性体の二層膜を作製し,スピンフリップ転移に伴う磁気構造変化をメスバウアー分光法等で解析した。その結果,二層膜ではスピンフリップ転移が消失することを示し,酸化物磁性体間においても,反強磁性体/強磁性体間に強い交換結合が存在することを初めて明らかにした。残念ながら当初の目標である交換結合を利用した磁性半導体のスピンコントロールは実現できなかったが,鉄系酸化物磁性体の詳細な成膜条件や薄膜の構造や磁性・電子状態など,膨大な基礎的成果を本研究で得ることができた。
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