本研究は、エポキシ樹脂中でシランアルコキサイドを重合させることによって有機ネットワークと無機ネットワークをハイブリッド化し、熱的・力学的性質を飛躍的に向上した新しいタイプの熱硬化性樹脂を創成しようとするものであった。反応条件を種々検討した結果、エポキシ樹脂をモノマーであると同時にゾルーゲル反応の溶媒であると考え、エポキシ樹脂をアミンで硬化すると同時に塩基性条件下で水の存在下にシランアルコキサイドを縮重合することによって、透明で均一な組成をもつエポキシ/シランハイブリッド体を調製することができた。このハイブリッド体では、シリカネットワークは完全にエポキシ樹脂に相溶しているのではなく、ナノメートルオーダーのクラスターを形成してマトリックス中に均一分布していることが明らかにされた。また、このようにシリカクラスターを均一分布させるには、エポキシ樹脂ネットワーク中に水酸基を生成することが必要であり、水酸基を生じないエポキシ樹脂硬化系ではシリカは粒子状に相分離しハイブリッド体を形成しないことも明らかにされた。これは、ハイブリッド体の形成にはエポキシおよびシリカネットワーク間に共有結合や水素結合による強い相互作用が必要なことを示した。 シリカのハイブリッド化に伴って、エポキシ樹脂硬化物に観察されるガラス転移が消失し、ハイブリッド体は熱分解温度まで高い強度と剛性を維持することが明らかにされた。 また、このエポキシ/シリカハイブリッド体からなるコーティング膜は高い表面硬度をもつが、その反面、塗膜の脆化により接着性は低下の傾向を示した。このエポキシ/シリカハイブリッド体はシリコーンエラストマーに対して、非常に優れた耐熱接着性を示した。これは、無機源として用いられたシランアルコキサイドがシリコーンに対して高い親和性をもち、接着界面で相互侵入網目を形成するためであることが明らかにされた。
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