クラスター堆積法は従来の薄膜作製プロセスよりも優れた物理的・化学的特性をもつ薄膜を作製可能な新技術として期待されている。得られる薄膜の特性はクラスターの作製条件に強い影響を受けるために、優れた性質をもつ薄膜を得るための最適な作製条件を見出すことは重要である。しかしながら、実験条件の多様性により、成膜条件を実験的にのみ解析するのは困難である。本研究の目的はシミュレーションにより成膜条件と薄膜の性質との関係を得ることにある。 気相からの成膜過程やクラスター堆積過程は通常、連続体として扱えないほど薄いガスの中で行われている。具体的にはガスの平均自由行程と系の代表的な長さの比で定義されるクヌッセン数が大きい条件であり、ガスの運動はナビエ・ストークス方程式では表せない。そのため、これらのガスの運動を解くためには個々の原子の運動を追跡して、全体のガスの運動を求める必要がある。本研究では、その手法の一つであるボルツマン方程式の確率解法(モンテカルロ直接法)をガス中のクラスター成長に適用し、さまざまな条件下で生成するクラスターの大きさの分布をシミュレーションした。さらに、得られたクラスターの大きさと並進速度をクラスター堆積過程の原子レベルシミュレーションの入力データとして計算に使い、基板表面でのクラスター堆積過程のダイナミックス、さらにその堆積膜の物性値を求め、成膜条件との関連について研究をしている。具体的にはクラスターの大きさ、堆積速度による薄膜の均一性や充填密度について検討している。
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