研究概要 |
焼結機械部品の中で最も多く用いられている炭素鋼について、極めて短時間で焼結できる方法として誘導加熱法を取り上げた。昨年度は焼結機械部品の製造過程の中で最も時間と工費を要している焼結工程に着目し、通常メッシュベルト式連続炉で1.5〜2h費やしている工程を誘導加熱法を用い、3分程度で焼結が完了する技術の開発を報告した.このことは、現状の焼結時間を大幅に短縮することであり、環境汚染対策及び省エネルギーの観点からも現状の処理と比較して大幅に有効であり、また多品種少量生産にも適していると考えられ、工業的には大きな効果が期待できた。 そこで、本年度は経済性や安全性の良好なN_2雰囲気のみでの急速焼結実験を行った結果、真空下と比べ鉄粉粒子に吸着したガス(O_2,H_2O及びHC等)が放出されにくいために、真空下より若干焼結に時間を要し、215sで通常連続炉での圧環強さをクリアすることができた.しかしながら鉄粉粒子に吸着したガスにより試料表面に約40μm程度の脱炭層が形成され、酸化膜に覆われる傾向にあった. 一方、この脱炭層、酸化被膜生成の防止と機械的性質改善のために、通常連続炉と同一のN_2+H_2雰囲気下での急速焼結実験を行った結果、わずか1〜2%のH_2添加で、N_2雰囲気のみでの急速焼結と同程度の機械的性質及び脱炭防止が可能であったが、焼結時間は340s必要であった.このH_2添加での焼結挙動は、鉄粉粒子に吸着したO_2ガスと雰囲気中のH_2が反応し、鉄化合物(FeOOH)が生成、結晶粒界に残存したためであり、この化合物によりH_2添加量が多いほどCuの粒界偏析が著しくなり、強度が大幅に低下した. これらは脱ガスや添加元素の拡散する時間が短すぎるために起こる急速焼結特有の問題であり、連続炉での焼結とは大幅に異なる現象であるため、今後急速焼結する際には重要なファクターを見出すことができた。誘導加熱法による各種雰囲気下での炭素鋼の急速焼結においての問題点は、鉄粉粒子表面に吸着しているO_2ガスであった。総合的には、ランニングコストの面では最も安価で安全な雰囲気ガスで焼結することができるN_2雰囲気での急速焼結が最も良いが、焼結した試料の機械的性質の面では真空で急速焼結した試料が最も良い値を得ることができた。一方、N_2-H_2雰囲気ではいずれも条件が厳しく、両雰囲気と比較すると特段良好なデータは得られなかった。
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