研究概要 |
クロムを5-15at%程含み,タンタルを5at%程度添加した場合,過冷却液体状態を示す温度領域が50K程度あり,銅金型鋳造法で直径1mmのバルク状アモルファス合金が作製できた。タンタル,クロム量をさらに増やすと過冷却液体領域は狭くなり,アモルファス相は鋳造法では生成しなくなった。モリブデンを添加した場合には15at%クロムを含む合金に10at%のモリブデンを添加することで,過冷却液体領域はかなり狭くなるものの,直径1mmのバルク状アモルファス合金が得られた。このように,タンタルやモリブデンを含むNi-Cr-P-B合金系でバルク状アモルフアス合金が生成することが確認された。得られた合金の耐食性を6M HC1溶液中で評価し,同じ組成の急冷リポン状アモルファス合金と比較した。1週間の浸漬腐食試験の結果,直径1mmのNi-15Cr-10Mo-16P-4BやNi-10Cr-5Ta-16P-4Bなどのバルク状アモルフアス合金は腐食速度1×10^<-3>mm y^<-1>以下の優れた耐食性を備えていることが明らかとなった。動電位分極測定から,これら合金は6M HC1中において自己不働態化しており,不働態電流密度は直径1mmのバルク合金とリボン状合金では違いが認められなかった。しかし,直径2mmのバルク状Ni-10Cr-5Ta-16P-4B合金はX線回折からはアモルファス構造が確認されたにもかかわらず,同じ組成の急冷リポン状合金や直径1mmの合金よりも約3倍ほど高い不働態電流密度を示した。透過電子顕微鏡により構造を詳細に検討した結果,直径1mmのバルク合金はほぽ完全なアモルファス構造を示すのに対し,直径2mmの合金の場合にはアモルファスマトリックス中に2-3nmのfcc Niナノ結晶が分散していることが明らかとなった。6M HC1溶液中において活性溶解するような結晶が析出することにより,耐食性が低下したと考えられる。しかしながら,直径2mmのNi-15Cr-10Mo-16P-4B合金では約20nm程度のfcc Niがアモルファス相中に析出しており,この場合には2桁程度も不働態電流密度が上昇することから,析出する結晶相が耐食性に有害であっても,そのサイズが数nm以下まで小さくなるとその影響はかなり小さくなると考えられる。
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