研究概要 |
Ni-16at%P-4at%B合金へクロムとニオブ,モリブデンまたはタンタルを添加することにより,銅金型を用いた鋳造により1-2mmの棒状バルクアモルファス合金を得ることができた.アモルファス形成能が大きく,バルクアモルファス合金が得られた組成は,ニオブとタンタルを添加した場合には幅広い過冷却液体温度域を持つ組成とほぼ一致し,過冷却液体状態の安定性とアモルファス形成能の相関に関する従来の報告と対応したが,モリブデンを添加した場合にはその傾向は見られなかった.作製したバルク状アモルファス合金は6Mおよび12M HCl中において自己不働態化し,過酷な腐食環境においても優れた耐食性を備えていることが明らかとなり,その耐食性はアモルファス単相合金が得られる限り,急冷リボン状合金と変わらないことが明らかとなった.しかし,合金組成,試料サイズによってはアモルファス相中にfcc Niが析出し,それは耐食性を低下させた.ただし,そのサイズが2-3nmまで低下すると,その影響はかなり小さくなり,析出する結晶サイズにより耐食性が大きく変化することが判明した.作製したバルク合金のうち,Ni-10Cr-5Nb-16P-4B合金が最も幅広い過冷却液体状態の温度範囲を示したので,このアモルファス合金粉末をガスアトマイズ法により作製し,これをさらに過冷却液体域の708Kにおいてシース圧延することにより厚さ2mmの板材も作製した.このアモルファス構造はX線回折および高分解能透過電子顕微鏡観察により確認された.しかし,濃厚塩酸中における耐食性は鋳造アモルファス合金よりも劣る.1週間濃厚塩酸中に浸漬した試料の表面を観察した結果,圧延材にはもとのアトマイズ粉末の粒子の境界に相当すると考えられる部分が選択的に腐食されていることがわかった.おそらく,圧延のために昇温した際,粒子表面にある厚さの酸化物膜が形成し,その酸化膜あるいはその酸化膜の形成による酸化膜直下の合金組成が変化した領域が優先的に腐食することにより,圧延で得られたアモルファス合金は急冷または鋳造アモルファス合金よりも耐食性が劣るものと考えられる.
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