これまでに、酸性水溶液中でFe-Cr合金あるいはSUS304ステンレス鋼の不働態化中に紫外光を照射すると生成した不働態皮膜中のCr濃縮がさらに促進され、その結果、塩化物環境での耐孔食性が改善されることを明らかにしてきた。本研究では、塩化物イオンを含む中性水溶液中でSUS304鋼の不働態化中に紫外光を照射すると、同様にCrの濃縮が促進され、同時に孔食電位の上昇が認められた。このとき、光電気化学応答ならびに電気化学インピーダンス特性を測定したところ、不働態皮膜はn型半導体としての特性を示し、紫外光の照射によってドナー密度が増加することが分かった。一方、紫外光の照射による励起電子・ホール対の生成が直接の原因となるバンド構造の変化は殆ど認められなかった。上述の、紫外光照射によるドナー密度の増大は励起電子・ホール対の再結合にともなうエネルギー放出による欠陥の生成の結果生じたと考えられ、このことは皮膜内のイオン特に鉄イオンの外向拡散を容易にし、鉄イオンの優先溶解を促進することにより皮膜内クロムの濃縮が加速されたと考えられる。 一方、純銅の湿潤環境での微量腐食に及ぼす紫外光照射の影響を検討した。紫外光照射がないとき、銅の酸化速度は温度、酸素分圧、湿度の増加とともに増大するが、紫外光照射により酸化速度は気相の酸素分圧に殆ど依存しなくなった。これは、銅表面に形成される吸着水膜中の酸化ポテンシャルが紫外光の照射により一定に制御されたと考えられる。
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