腐食によって毎年膨大な金額の経済的損失を金属材料は被っている。このため、腐食に関する研究は、材料の耐食性、適正材料の選定、新材料の開発、腐食機構の解明等の目的で実施されているが、腐食防止及び診断・評価の見地から材料の表面腐食特性に対する簡便かつ客観的判定評価法の確立に至っていない。また、本研究では、鋼に匹敵する高強度・高靭性および腐食環境下での使用を考慮した耐候性オーステンパ球状黒鉛鋳鉄の開発を合わせて目指した。 本年度は、耐候性の向上に興味が持たれるCu-Ni系球状黒鉛鋳鉄とその比較材FCD500相当の球状黒鉛鋳鉄および鋳鉄で優れた耐食性を有する白鋳鉄、高Si含有球状黒鉛鋳鉄、および比較材料として機械構造用炭素鋼の耐腐食特性について実験した。さらに、鋳鉄が持つ基地組織が耐腐食特性にどの様な影響を及ぼすか明らかにするためにフェライト、マルテンサイトおよびオースフェライトの各組織に熱処理によって調整し、自然電位の測定および定電位分極法による電極電位掃引測定を行った。 本研究の結果、Cu-Niを添加した球状黒鉛鋳鉄は優れた耐腐食特性を示した。マルテンサイトおよびオースフェライト基地組織に調整した球状黒鉛鋳鉄は、鋳放しおよびフェライト組織に益して高い耐腐食特性を示した。また、オーステンパ熱処理を行ったオースフェライト組織は、その恒温処理温度により耐腐食性が異なることが判明した。特に、Cu-Ni系球状黒鉛鋳鉄では恒温処理が低い523Kで自然電位およびアノード電位において最も優れた特性を得た。以上のことから、基地組織を熱処理によって微細化した球状黒鉛鋳鉄の耐腐食特性が優れた特性を与えることが判明した。 一方、合金元素を含有する球状黒鉛鋳鉄の疲労き裂進展試験では、オーステンパ熱処理を施すことによって合金元素の添加がない球状黒鉛鋳鉄よりも応力下限界値が低い値を示した。この結果に対してはさらに検証を深める必要がある。
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