研究概要 |
本研究は,平成6年度に奨励研究Aとして採択された「液体金属の熱伝導度の測定」を引き継ぐものである。前回は,液体金属の測定用に絶縁被履した非定常熱線法プローブを開発し,水銀の測定を試みた。その結果,熱伝導度は文献値より50%程度大きくなり,低粘度の試料については対流の影響を除去する必要があることを指摘した。 本研究では,測定対象を複数系液体に広げ,液体金属の他に溶融半導体やガラスなども視野に入れている。今年度はまず,対流の影響を除去できる実験条件・解析方法の検討を行い,測定装置を除振台上に設置し,試料内の初期温度分布を適正化し,測定開始後2秒以内の温度上昇データを用いて解析することとした。SiO_2系の絶縁膜で白金製の熱線法プローブを被履し,水銀の測定を室温で行った結果,8.2W/mKの値が得られ,文献値と良い一致を示した。また,同様の方法で溶融鉛の測定を融点(600K)から1000Kの温度範囲で行った。熱伝導度の値は融点で約15W/mKとなり,非常に小さいが負の温度依存性を示した。この温度依存性はWiedemann-Franz則の予測とは異なるものであるため,この法則の妥当性は今後再考察する。また,対流を実験的に除去するために,落下塔施設による無重力環境での測定を溶融Siに対して行った。温度上昇データは対流が完全に除去されたことを示したが、熱伝導度の値は1740Kにおいて約10W/mKとなり,文献値の1/6程度の小さい値となった。この原因については現在検討中である。一方,溶融ガラスに関しては,アルカリシリケートガラスの測定を行った。溶融状態では,アルカリイオンの半径がLi,Na,Kと大きくなるにつれて,熱伝導度の値は小さくなった。酵素イオンの電子分極率と比較して,アルカリイオン-非架橋酵素イオン間の結合がよりイオン性であるほど,熱伝導度の値が小さくなると結論した。
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