固液分散スラリー系・エマルジョン系のレオロジー特性を把握することは分散系を取り扱うプロセスにおいて重要な課題である。固液分散スラリーの粘度はその粒径分布・固体体積分率・粒子形状・固体表面特性・媒体との相互作用などによって大きく変化するので、これらのパラメータを包含した統一的な粘度予測モデルの提案が望まれてきた。球形粒子の凝集性スラリーのチキソトロピーモデルについては、薄井らが一連の研究で報告してきた。従来の研究では非球形粒子に対する取り扱いが完全でなかったので、本研究では石炭灰の水分散スラリーを例として、非球形微粒子分散系のチキソトロピーモデルを提案することを研究目的とした。 一方、近年における地球環境問題の重視と、エネルギー安定供給の面から、化石燃料の一つである石炭については、炭酸ガス排出問題からの指摘はあるものの、石炭使用量は今後増加の傾向を続けるものと予想される。現在我が国で利用している石炭中には平均12%の灰分を含んでいる。このため、多量の石炭灰が排出され、その有効利用が検討されつつある。現在、石炭灰のほとんどはセメント混入材として有効利用されているが、セメント生産量の低迷、石炭灰有効利用技術の新規開発が進んでいないことなどから、数年先では数百万トン規模の石炭灰を埋め立て処理する必要が生じると予想されている。そこで、本研究では先に述べた石炭灰スラリーのチキソトロピーモデルを基礎として、高濃度石炭灰・水スラリーのパイプライン輸送システムを提案し、低コストの石炭灰処理技術に寄与することを第2の研究目的とした。 本研究では石炭灰の球形度を画像解析により決定し、多くの画像データから粒径分布の各範囲に対する球形度を決定した。更に、粒径分布を持つ非球形粒子の最大充填体積分率を算出するアルゴリズムを提案した。従来提出されている薄井の分散系レオロジーモデルを非球形粒子系に拡張し、Simhaの完全分散系モデルと合わせた分散系レオロジー予測モデルを提案した。これらのモデルによる予測精度を高濃度石炭灰-水スラリー(固体濃度=70wt%)のレオロジー測定結果と対比して、モデルの有効性を確認した。更に、石炭灰-水スラリーのレオロジー予測結果を基にして、火力発電所から10km離れた管理型埋め立て処分場にパイプラインによりスラリー輸送する場合のシステム設計を行った。動力計算、設備のコスト計算を行い、提案したスラリー輸送システムが実用上、有効であることを示した。 以上の研究成果は、非球形微粒子を分散させた分散系レオロジーにおける非ニュートン粘度の予測を可能にするものであり、学術的価値が高い。またこの基礎研究に基づいたスラリー輸送システムの設計手法は実用上も有益である。
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