研究概要 |
本研究では工場からの排水処理を目的とした毒物認識ゲート機能膜の作成及び排水処理システムの開発を行う。排水中の環境汚染物質としては重金属イオンを対象とする。多孔性基材内部にクラウンエーテル(CE)など包摂化合物を有する感温性ポリマーをグラフト鎖として固定する。CEは環状物質で、その環の大きさにより特定のイオンだけをホストーゲスト的に捕捉することができる。感温性ゲル中のホストがゲストを捕らえると、ポリマー全体の親疎水性が変化し、感温性ゲルの相転移温度がシフトすることが知られている。従って、この錯体形成により変化する相転移温度の間でこのシステムを用いれば、一定温度下でゲストが捕らえられたときにだけゲルが膨潤または収縮し、細孔を開閉することになる。CEの種類を変化させれば、様々な重金属イオンに対応したゲート機能膜が開発できる。 昨年度までに合成した膜を用い、イオンシグナルにより膜の分画分子量曲線が変化することを示した。1枚の膜で分子シグナルを認識して、分離性能を制御できる膜としての利用が可能である。また、将来の応用に向けて、用途に合わせた設計を行うために、応答機構を詳細に検討した。グラフトポリマー中のCEモノマーの濃度は7mol%であった。クラウン環はBa2+,Pb2+,Sr2+,K+を供給すると錯体を形成し、Li+,Na+,Ca2+とは錯体をほとんど形成しない。各イオンに関して今回作成したポリマーとの錯体定数を把握したが、モノマー単体の時よりも1桁程度低い値を示した。さらに、クラウン環が錯体を形成するとクラウン環周りの水が構造化され、相転移エンタルピーは減少し、相転移温度は高温側にシフトすることが分かった。錯体形成により周辺の水の状態を変化させ、金属イオンとの錯体定数が大きいホストを用いれば、極低濃度のイオンシグナルにも敏感に応答する膜の開発が可能となる。
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