研究概要 |
水素分離型メンブレンリアクターなどに代表される,生成物分離型反応システムが次世代型化学反応システムとして注目されている。本研究では,この反応システムの工業プロセス化のために必要となる知見の集積を目的として,数値シミュレーションによる分離型反応システムの詳細な特性解析や,Pd-Ag膜に代わる安価な無機分離膜の製作について検討した。本年度は,システム解析のために昨年度開発した数値シミュレーターの修正と精密化を行ない,また無電解めっき法により調製した無機分離膜の物性測定を中心とした研究を実施し,以下の成果が得られた。 (1)大きな吸熱を伴う反応であるエチルベンゼンの脱水素反応をメンブレンリアクターで行なった場合,反応器内の温度は入口付近や反応管中心で大きく低下し,そのため,分離膜近傍の温度も操作温度より数十℃も低下することが明かとなった。分離膜の水素透過特性が器内の温度分布に大きく影響されることが推論された。メンブレンリアクター内の詳細な温度分布については,これまで内外の論文でも報告例がほとんどなく,本研究の実施により初めて明かとなり,貴重で有用な知見が得られた。 (2)反応操作条件の違いや,反応器寸法の違いがメンブレンリアクターのシステム特性に及ぼす影響について数値シミュレーションを実施し,操作圧力,反応温度,Sweepガス速度,反応管体積などのパラメーター因子とシステム特性との相関性に関する考察を加えた。また,分離膜の水素透過速度が反応率に及ぼす影響についても検討を加え,Pd-Ag膜に代わるニッケル系無機膜の適用の可能性が明かとなった。 (3)無電解めっきで調製したニッケル系無機分離膜の物性測定から,支持体である多孔質アルミナ管上には3-5μm程度の均一で均質なニッケル層が析出していることや,ニッケル層には試薬中から混入したリン成分も含まれ,水素脆化を回避するための膜の合金化の可能性が示唆された。
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