本研究では、差周波発生による赤外超短パルス光源を赤外顕微法と融合させることで、回折限界にまで赤外光を集光し、赤外スペクトルを測定するシステムを構築し、赤外顕微分光法の高解像度化・高SN比化を図った。さらに、波長による制限を超えた空間分解能を実現する近接場顕微法と赤外分光法の結合による近接場赤外顕微分光法について検討を行い、それを達成するための微小開口を有するカンチレバーの設計・作製およびその制御系の開発を行った。 構築した赤外顕微システムを用いて、CaF_2基板上に展開したポリスチレン球(直径10μm)を波長3.4μmの赤外光で観察し、ポリスチレン内のC-H伸縮振動モードによる吸収像を得た。互いに接したポリスチレン微小球を識別できることを確認し、回折限界程度の空間分解を達成した。さらに、レジストからなる周期構造体の観察を行い、エステル結合のC=O伸縮モードに相当する波長5.8μmの赤外光による明瞭な吸収画像を得た。 また、近接場赤外顕微分光法の検討では、赤外顕微分光システムおよびプローブを原子間力制御で操作するモジュールから構成される赤外近接場顕微分光システムを試作した。プローブには、微小開口をチップ先端に有するカンチレバーをシリコンプロセスにより作製し、用いた。微小開口カンチレバーの光学的スループットを測定したところ、10^<-3>を得、これまでのプローブと比べて10^2倍の向上を達成した。 本研究では、とくに、赤外顕微分光法の空間分解能の向上を精力的に試み、新しい赤外顕微分光法を提供することができたと考える。今後の展開としては、今回用いた赤外光源のパルス性を積極的に利用することで、時間分解法をさらに組み合わせることがあげられる。これにより、分子のダイナミクスを個別に顕微観察する手法が提供できると考えている。
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