本研究は、ガラス製造プロセスで最もエネルギーを消費する「溶融」過程で、その温度を低下させた場合に泡が多量に残留し清澄作用が大きく低下してしまうという問題に対し、その代価技術の開発につながる基礎データの収集を目的として行った。 実験では、工業的に広く製造・利用されているフリントガラス(ソーダ石灰ガラスNa_2O-CaO-SiO_2系)を対象とし、このガラスを通常の溶融に用いられている温度1500℃より低い1200℃の低温で溶融し、生成した融液に白金電極を挿入後、数ボルトの直流電圧を負荷し、融液/白金電極界面にて電気化学的反応を生じさせた。 その結果、陽極界面においては直径約1mm程度の酸素による泡の連続的な発生が観測され、融液内を早い速度で上昇していくことが観測された。また、ガラス中に微量存在している鉄の2価/3価の酸化還元平衡は酸化側へと移行し、陰極/融液/雰囲気3相界面での酸素分子の還元が生じていることがわかった。また、平衡反応の移行は通電していない場合に比べて極めて速く生じていることもわかった。 観測された気泡の上昇速度は、融液の粘度、密度のデータと気泡の浮上モデルから計算した値に比べ約5倍も速く、気泡の連続発生にともなってガラス融液内に大きく対流が発生していたことから、直流通電はガラス融液中に単に気泡を発生するだけでなく、融液内に存在している酸化還元平衡のシフトを大きな速度で生じさせる効果を有し、ガラスの溶融プロセスにおいて高温で生じていた種々の変化を低温でも生じさせることができ、ガラスの低温溶融プロセスにおいて有効な新規技術となることが期待された。
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