研究概要 |
首都圏や大都市圏では下水道の完備が進み,それにともなって下水汚泥焼却灰の処理問題が起こっている.東京都でも汚泥焼却灰の処理は,新しい用途開発して肥料や固形ブロックなどに利用しようとしているが,いまだそのほとんどは埋め立て処理に頼っている.しかし,その処分場もあと数年でいっぱいになり,きわめて切実な問題になっている.また,下水汚泥焼却灰の利用法については,いろいろと考案されているが,処理量が少なかったり,処理費が高価であったりと現実性のある方法がなかなか見つかっていない.そこで本研究では,下水汚泥焼却灰を安価に大量に処理できるセメント原料化への応用を検討する. (1)汚泥焼却灰からのリン酸成分の有効な溶出方法の検討 汚泥焼却灰中のリン酸基の形態は処理場によって異なるが,そのほとんどは無機リン酸塩の形で固定されていることがわかった.すなわち,汚泥をカルシウム塩を用いて沈殿させている処理場の場合にはリン酸三カルシウムとして存在する.このことから,汚泥焼却灰を硫酸溶液で溶出処理することにより,有効的に焼却灰からリン酸成分を溶出させることができ,セメント原料化を可能にした. (2)溶出したリン酸分を分離回収する方法の検討 溶出したリン酸成分を溶媒抽出法によって回収する基礎研究を行った.溶媒抽出法は溶出したリン酸成分を含んだ溶液と有機溶媒とを接触させ,リン酸成分だけを有機溶媒相に移動させて抽出分離する方法であり,リサイクル性にすぐれているという利点がある.実験の結果,有機溶媒層にn-ブタノールを用いた場合にリン酸の抽出に優れた選択性を有することを認めた.また,この選択性は抽出時のpHや,有機溶媒層および逆抽出層の層比などにも影響していることを明らかにし,この方法によって溶出したリン酸だけを適当な濃度まで回収,濃縮することができた.
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