研究概要 |
機能性酸化物は種々あるが、本研究ではLi二次電池正極材料を取り上げた。これらの熱力学データーを求め、その化学安定性などの知見を得て、より高性能な正極材料を得るための指針を提供し、設計することを目的とする。ここではLiMnから成る複合酸化物の溶解熱測定を行い、複合酸化物の組成変化、置換、焼成プロセスを変えた酸化物の熱力学データーを求めた。LiMn系スピネルLiMn_2O_4,同一構造で組成の異なるLi_4Mn_5O_<12>,欠陥スピネル構造を持つLi_2Mn_4O_9を合成し、組成、Mnの価数、格子定数を決定した後、カロリーメトリー法で溶解熱を測定することにより、標準生成エンタルピーΔ_fH^Οおよび単純酸化物から目的物質を生成する反応のエンタルピー変化ΔΗ(構成原子数の違いによる影響を受けないように、1グラム原子当たりの反応のエンタルピー変化ΔΗ_R)を算出し、物質の熱力学的な安定性を検討した。その結果、Li_4Mn_5O_<12>,Li_2Mn_4O_9はLiMn_2O_4に比べてΔΗ_Rの絶対値が大きく、熱力学的に安定化する傾向がみられた。また、これらを用いて3V領域で電池作動試験を行ったところ、Li_4Mn_5O_<12>,Li_2Mn_4O_9はLiMn_2O_4に比べてサイクルに伴う放電容量の減少が抑えられた。このサイクル特性と熱力学的な安定性を比較したところ両者に良い相関が見られた。この傾向は、Li_<1+x>Mn_<2-x>O_4やLiMn_<2-x>Mg_xO_4によっても得られており、これらについては中性子回折による構造解析やDSCなどによる相転移挙動の検討も行った結果、熱力学的に安定な物質は、構造的に安定で、充放電時のサイクルに伴う構造破壊が起こりにくいことが分かった。現在、構造解析または理論的に格子エネルギーを求めることにより、これら熱力学データとの整合性や電池の充放電挙動との比較も検討している。
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