研究概要 |
新しい基本的かつ汎用性の高い高選択的炭素骨洛形成反応を開発することは、次世代の有機合成化学および有機工業化学の発展のために不可欠でる。本研究では、従来そのカルボニル化能がロジウム、パラジウムあるいはコバルト触媒に比べ低いと考えられていたルテニウム錯体触媒を用い、他の遷移金属錯体触媒では達成不可能な、ルテニウム錯体触媒に特徴的な新規カルボニル化能を利用した高選択的炭素骨格構築法の開発を行った。その結果、種々の生理活性物質の基本骨格として重要なシクロペンテノン骨格新構築法として、以下の2種類の新反応の開発に成功した。 1.ルテニウム錯体触媒を用いるシクロブテンジオン類とアルケンとの新規脱モノカルボニル化カップリング反応によるシクロペンテノン誘導体合成法の開発 シクロブテシジオン類は、工業的にもその合成法が確立されている2π系擬芳香族性オキソカーボンであるスクアリン酸から容易に誘導可能であり、多環芳香族化合物の重要な合成中間体として利用されている。しかしながら、遷移金属錯体触媒を用いるシクロブテンジオン類の有機合成反応への利用については報告例がなかった。我々は既に、ルテニウム錯体触媒を用いるエンイン類の接触的分子内Pauson-Khand反応の最初の例を見出しており、本研究ではシクロブテンジオン類をアルキンおよび一酸化炭素等価体として用いるアルケンとの交差カップリング反応について詳細な検討を行った。その結果、Ru_3(CO)_<12>/PEt_3触媒存在下、3-位にアルコキシ置換基を有するシクロブテンジオン類の2,3-位の位置選択的炭素-炭素結合切断反応が進行し、続くアルケンとの新規脱モノカルボニル化カップリング反応により、対応するシクロペンテノン誘導体が高位置および立体選択的に良好な収率で得られることを見出した。本反応において、一酸化炭素圧の影響は大きく、3気圧程度の一酸化炭素の加圧が不可欠である。^<13>COラベル実験の結果より、一酸化炭素はシクロブテンジオン類のルテニウム活性種への位置選択的酸化的付加反応および選択的脱モノカルボニル化反応により生成するルテナシクロブテノン中間体の安定化に寄与しており、対応するアルキンへの分解を抑制していると考えられる。 2.ルテニウム錯体触媒存在下、アリル炭酸エステル類とオレフィンとの新規交差カルボニル化反応によるシクロペンテノン誘導体合成法の開発 我々が見出したπ-アリルルテニウム錯体の特異な反応性を利用した新規合成反応を開発する過程において、新規ルテニウム触媒系,(η^3-C_3H_5)RuBr(CO)_3/Et_3N,により、アリル炭酸エステル類とアルケンとの交差カルボニル化反応が進行し、対応するシクロペンテノン誘導体が高収率で得られることを見出した。 1、2.いずれの反応も、これまで量論反応であるにも拘わらず、広く有機合成反応に用いられてきた分子間Pauson-Khand反応を凌駕する接触的新規シクロペンテノン骨格構築法である。
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