研究概要 |
本研究は、多核錯体系による窒素分子の開裂活性化を、有機基質の分子変換系に適応させるための反応場構築を目的とする。具体的には、構造明確な同時(一段階)多電子移動錯体系を対象に、窒素分子との反応がμ-dinltrido型錯体の形成を誘導することが、従来困難とされた窒素の6〜8電子還元や、これを介した各種芳香族分子の酸化重合に有効な過程であるとする着想を実証することを目的としている。 窒素は殆どの遷移金属に配位するが、窒素架橋配位錯体の具体例は少ない。既に代表者らにより確立されたμ-dioxoバナジウム複核錯体を利用する酸素4電子開裂法を窒素開裂に拡張するため、μ-dinitrido型錯体の具体例を探索、開裂過程を電極反応により観測できる錯体系として、ジエチルジチオカルバマ卜を配位子とするニオブ錯体系を選択し、単核錯体([Nb(dtc)_2CI_3],[Nb(dtc)_4])および窒素架橋複核錯体[(dtc)_3NbNNNb(dtc)_3])を合成した。電解質溶液において、ニオブ単核錯体が可逆的な酸化還元を示すこと、条件によりNb(III)〜Nb(V)までが関与した一段階2電子過程を示すこと、また、Nb(III)は窒素分子と反応してμ-dinitrido型錯体を生成することなどが解明された。 次いで、金属種をバナジウムのほか広く第2周期遷移金属に展開し、反応場を利用して窒素の一段階多電子還元の確立を目指した.電子移動と連動する配位構造の変化をX線結晶解析により正確に決定、一段階多電子移動が可能となる錯体構造要件を詳細に把握した。また、合成した多核錯体全てについてサイクリックボルタンメトリー測定を実施、酸化還元電位、移動電子数、拡散定数を正確に決定、配位系の平衡電位測定も援用して、配位窒素への多電子分極の度合いを定量的に把握した。 その結果、環状Schiff塩基配位子を有するμ-オキソ多核錯体では、窒素の架橋配位による4核形成に伴い、N-N結合次数が著しく低下することを、分子軌道計算および電解Ramanスペクトル同時測定から詳細に明らかにし、従来の単核錯体系に比べ、多電子移動が著しく容易に生起することを明らかにした。バナジウム錯体で得られた知見を拡張して、これが多核錯体に普遍的に観測される現象であることを、主に計算化学により解明し、今後実験的証明を展開する根拠を確立することが出来た。
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