一つの分子内に二重結合と三重結合を有する1.6-エンイン化合物の、1-ビニルシクロペンテン類への分子内正常および異常骨格再構成反応(分子内エンインメタセシス反応)が、室温という極めて穏和な条件下、カチオン性白金(ある場合はパラジウム)錯体で触媒されることを明らかにした。二重結合および三重結合の両方の開裂を含む炭素骨格の異常再構成反応は、ある特殊な条件下で進行し、このことは炭素-12、および水素-2を用いる標識実験により確認された。またさまざまなアルキル置換基を二重結合、三重結合上に導入し、本異常反応の適用範囲を検討した。dppe(1.2-ビスジフェニルホスフィノエタン)やdppp(1.3-ビスジフェニルホスフィノプロパン)などの二座ホスフィン配位子を有するカチオン性白金錯体がこの異常反応をきわめて容易に促進するのに対し、対応する中性白金錯体はメタセシス反応そのものに全く触媒作用を示さないことを明らかにした。さらにホモログ体である1.7-エンイン化合物もこの異常骨格再構成反応を行うこともわかった。これらの実験結果に基づき、この異常骨格再構成反応に対して、1.6-エンイン化合物とカチオン性白金錯体の相互作用により誘導されるホモアリルおよびシクロプロピルカルビニルカチオン種の非古典的骨格異性化を経て、1-ビニルシクロペンテン生成にいたる反応機構を提案した。
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