近年、ラジカル反応を用いる有機合成、高分子合成に関する重要性はますます高まっており、その精密制御は現代化学の大きな課題の一つである。中でも、ケイ素、スズなどのIVa族のラジカル種は、有機合成の分野では還元剤として、また材料科学の分野では CVD プロセスの鍵中間体として興味が持たれている。しかし、これらのラジカルは反応性が極めて高く、立体的に嵩高い置換基を導入して安定性を向上させたものが、汎用的に用いられている。申請者らは、これまでにケイ素原子がポリフィリン配位子にキレートされた、ケイ素ポルフィリン錯体の合成に成功しており、さらにそれらの構造が、ケイ素原子に結合したアキシャル基に大きく依存することを見いだしている。 本研究では、有機ケイ素ポルフィリン錯体の光反応性を重点的に調査した。その結果、ポルフィリンのπ-電子雲に内包されたケイ素化合物が、特異な光ラジカル反応性を示すことを見いだした。例えば、ジアルキルケイ素ポルフィリンに可視光を照射すると、炭素-ケイ素結合が容易にホモ開裂し、ケイ素ジラジカル(基底状態三重項のシリレン等価体)が生成する。このラジカル種は、通常のケイ素ラジカルと同様に、特徴的な EPR シグナルを示すが、ポルフィリンπ-電子雲との間の不対電子の非局在化のため、例外的な安定性を示す。例えば、室温、暗所下では、EPR強度は60日以上にわたってほとんど変化せず、巨大なπ-電子雲によってケイ素ラジカルが安定化されていることが示された。
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