不斉中心にフッ素が結合した光学活性有機フッ素化合物は医薬、農薬、機能性材料としてその重要性が急速に増している。従来この種の合成にはラセミ体の分割、生物化学的方法、含フッ素キラルビルデイングブロック法が主に用いられてきたが、より効率的な方法の開発が望まれている。申請者らは有機化合物をフッ化物イオン存在下、電解酸化するだけで有機化合物中にフッ素原子を選択的に導入できる画期的な電解フッ素化法を見い出している。そこで、本研究ではこの電解フッ素化法をさらに発展させ、これまで全く未踏の分野であった電解不斉フッ素化法を開拓することを主な目的として、以下のような研究を行った。 1)光学活性1、3-チアゾリジン類の電解不斉フッ素化:L-システインから容易に誘導できる光学活性1、3-チアゾリジン類を対象にし、環状1、2-不斉誘導に基づく電解不斉フッ素化法を開拓した。本方法は不斉フッ素化のジアステレオ選択性が極めて高く、生成物の収率も良好であり、合成化学的価値の高い反応である。 2)隣接基関与、分子内配位を基盤とするする電解不斉フッ素化法の開拓:分子内にCF_3基とOH基をあわせ持つスルフィドを電解フッ素化するとOH基がα-カチオンに隣接基関与により分子内配位し、そのため高いジアステレオ選択性でフッ素化されることを見い出した。 3)不斉補助基を有するスルフィド類の電解不斉フッ素化法の開拓:Evansの不斉補助基を有するα-フェニルチオ酢酸エステルのジアステレオ選択的フッ素化に成功するとともに電解溶媒によりフッ素化体の絶対配置が異なる現象を見い出した。 このように所期の目的をほぼ達成することができた。
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