すでに本研究課題のチタンカスケード反応による、i)多環性シクロペンタジエノールの合成と、ii)光学活性ビシクロケトンの合成は達成できた。そこで、今年度の研究計画に従いi)の展開である光学活性多環状シクロペンタジエノールの合成と応用につき検討したが、原料の合成が困難であり断念した。また、チタナサイクルに2箇所の求電子部位を持つ化合物(例えばジケトンなど)を作用させ、2箇所の炭素-チタン結合との反応を通じて多環状化合物に導く反応も現在のところ成功していない。ところが、この研究途上、エステル基やアミド基で連結された種々のジイン化合物に、本研究で用いている2価チタンアルコキシド試薬(η^2-propene)Ti(O-i-Pr)^2を作用させると、アセチレンの分子内環化が進行し双環性チタナサイクルが発生出来ることを見い出した。この加水分解により、ラクトンやラクタム部位を含むヘテロ環状エキソ共役ジエンが収率良く合成できた(全8例、50-83%収率)。これらエキソジエンはDiels-Alder反応に対して高い反応性を示すと考えられ、実際にアセチレンケトンやエステルあるいはマレイミドを反応させると、Diels-Alder反応が収率良くかつ位置選択的に進行し、目的とする双環性化合物が得ちれた(全5例、66-95%収率)。この際、ラクタム環上に置換基を持つ不斉な基質とのDiels-Alder反応では、この置換基を避ける側から反応が選択的に進行し、ほぼ完全な不斉誘導がみられた。あるいはラクタム窒素上のフェネチル基の様な遠隔不斉修飾基による不斉誘導も利用できた。以上要するに、2価チタンアルコキシド試薬による官能性アセチレンの分子内カップリング反応によるジエン合成とDiels-Alder反応をタンデムに組み合わせることにより、(光学活性)双環性化合物を簡便に合成できた(研究発表、論文1番目)。
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