研究概要 |
本研究課題は、有機硫黄化合物を用い、従来法とは異なる概念に基づいた不斉合成反応を新たに開発することを目的として、平成11年度より行われてきた。平成11年度はβ-シリルエチルスルホキシドから生成したα-スルフィニルカルボアニオンと種々の求電子剤と反応を検討し、いづれも単一ジアステレオマーを与えるという非常に高い立体選択性を実現することができた。平成12年度は、これまでほとんど立体選択的反応が検討されていないスルフィドのα-カルボアニオンのエナンチオ選択的反応について検討した。α-スタンニルベンジルフェニルスルフィドをクメン中、ブチルリチウムおよびビスオキサゾリンと反応させることにより得られたα-スルフェニルカルボアニオンを求電子剤と反応させた。求電子剤としてケトン、アルデヒド、トリフルオロスルホン酸メチル、塩化トリメチルシリル、二酸化炭素など高エナンチオ選択的に反応が進行した。ラセミ混合物のα-スタンニルベンジルフェニルスルフィドを用いていることや種々反応条件で検討し、この立体選択性の発現機構は、dynamic kinetic resolutionによることを明らかにした。一方、2-ピリジルベンジルスルフィドから生成したαースルフェニルカルボアニオンは誘起される立体化学がフェニルスルフェニルカルボアニオンの場合と完全に逆転した生成物を高エナンチオ選択的に与えることがわかった。この反応のエナンチオ選択性はdynamic thermodynamic resolutionで発現することを、分子軌道計算を用いた解析などから明らかにした。このようにスルフィド上の置換基によって立体選択性発現機構が全く異なり、それぞれ、立体保持および立体反転で進行するという極めて興味深い反応を見いだした。また、かさ高いアリールスルフィニル基を用いた炭素-硫黄結合軸の回転障壁による新しい不斉合成反応を検討し、2,4,6-トリイソプロピルフェニルスルフィニル基を有する1-スルフィニル-2-ホルミルおよび2-アシルナフタレンへの求核付加、向山アルドール反応および還元反応は高立体選択的に進行することを見いだした。得られた選択性はC-S軸の回転障壁に起因することが^1H NMRおよびX線結晶構造解析の結果から示唆された。得られた生成物は比較的容易に脱スルフィニル化を行うことができ、光学活性アルコールの合成に有効であることを示した。
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