α-フルオロ-β-ヒドロキシカルボン酸誘導体は多様なモノフルオロ化合物を合成する際の中間体として重要な地位を占めている化合物である。この種の化合物を構築するにはアルドール型の反応を利用するのが最も一般的であるが、今日までの膨大な研究によって、モノフルオロ金属エノラートとカルボニル化合物とのアルドール反応やブロモフルオロ酢酸エチルのReformatsky反応は非立体選択的な反応であり、α-フルオロ-β-ヒドロキシカルボニル骨格を高立体選択的に合成することはかなり難しいとされている。 本研究では、入手の容易なジブロモフルオロ酢酸エチルからα-ブロモ-α-フルオロ-β-ヒドロキシカルボン酸エチル1を合成し、α-フルオロ-β-ヒドロキシエステル骨格の立体選択的な構築法として1のスタナンによるラジカル反応、特にα-アリル化反応の立体制御法について詳細に検討した。 その結果、原料1のヒドロキシル基をt-ブチルジメチルシリル基で保護したα-ブロモエステルを用いてアリル化反応を行なうと、特にβ位に芳香族置換基をもつエステルの場合に、エリトロ選択的にかつ良い収率で相当するアリル化生成物、α-アリル置換-α-フルオロ-β-シリルオキシカルボン酸エチルが得られることがわかった。一方、エステル1を保護せずにトリメチルアルミニウムで処理してβ-アルミニウムアルコキシドエステルに変換した後、ラジカル的アリル化反応を行なうと、β位の置換基が芳香族および脂肪族に関わらず、高トレオ選択的に良好な収率で対応するα-アリル化生成物が得られることが明らかになった。 これらの結果は、α-フルオロ-β-ヒドロキシエステルを立体選択的に合成する最初のプロセス(方法)を提供するものであり、今後、有機フッ素化学をはじめ一般有機化学や合成化学において大いに役立つものと期待される。
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