Cp'-P配位子は、シクロペンタジエニル誘導体とホスフィノ基が適当なキレート鎖で繋がれた配位子である。私はこれまで、スペーサー上に不斉点を有する第1世代Cp'-P配位子、および、金属に配位するとインデン環の配向により面不斉が発生する第2世代Cp'-P配位子を合成し、その性質を明らかにしてきた。その結果、インデン環が中心金属に配位することにより発現する面不斉が金属上の不斉中心の制御に非常に効果的であることを見いだした。本研究ではこれらの知見をさらに発展させ、インデン環に光学活性置換基を導入した第3世代のCp'-P配位子を新たに設計し合成することにより、面不斉と中心性不斉との融合による新たなより効率の良い金属中心の立体制御方法の確立を目指した。また、その錯体化学的手法により得られた知見をいかし、立体特異的かつ立体選択的な新たな有機合成反応を開発し、さらには不斉触媒反応の開発へと展開することを計画し以下の研究成果を得た。 1つめは、第3世代のCp'-P配位子を設計し、その性質を明らかにした。例えば、Cp'-P配位子として、ネオイソメンチル基のような光学活性置換基を有するインデン環とジフェニルフォスフィノ基を有するもの(第3世代のCp'-P配位子)を用いると、ロジウムカルボニル化合物に対するハロゲン化アルキルの酸化的付加反応によって、発生するロジウム上の不斉点が、この置換基の中心性不斉と、インデン環上に発生する面不斉の共同作用により、高度に制御することができることがわかった。2つめは、金属周りの立体化学の安定性について興味深い知見が得られた。3脚いす形の錯体は、金属周りの立体化学に関しあまり安定ではない、すなわち容易にラセミ化するといわれている。Cp'-P配位子を用いると金属周りの不斉点は安定に存在することができ、金属周りの立体化学を保持したままの変換反応に利用することができる。この性質を利用すると、カルボニル基のMigratoryl insertionおよびretro-Migratory insertionにおいて、立体特異的にアルキル基が移動していることを明らかにすることができた。3つめは、Cp'-P配位子が有する歪みのエネルギーが新たな反応性を生み出すことができたという点である。Cp'-P配位子を有するカチオン性ロジウム錯体を用いると、アルキンのローダアシレーション反応が容易に進行し、さらに4置換オレフィンの生成反応へ展開することができた。この反応は、Cp'-P配位子配位子が存在しないと進行しない。
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