本研究は、不斉光反応により得られた知見を基に、高分子の「分子認識」を「反応制御(励起状態における)」に利用しようとするものであり、これまでの不斉光化学と高分子化学の両分野に新たな展開をもたらす研究と位置づけられる。具体的には高次構造を有する生体高分子であるDNAやポリペプチド・多糖などを化学修飾し、制御された「不斉反応場」として用い、不斉反応場に取り込んだ増感剤による不斉光増感反応を行うことにより、高効率な不斉光反応を達成しようとするものである。具体的には生体高分子である核酸の二重らせん構造や牛血清アルブミンに増感剤や基質を挿入し、超分子不斉光化学反応の不斉反応場としての適用の可能性について検討する。これにより、DNAの二重らせん構造のグルーブ(溝)やタンパク質の基質結合サイトを制御された反応場として用い、高効率な不斉光反応の達成を行おうとするものである。 種々の検討の結果、DNAを増感剤とする系では異性化効率は低いものの15%の光学収率でキラル生成物が得られ、チミジンの連続配列がキラル増感剤として有効な反応部位であることを明らかとした。また、入手しやすく、取り扱いが容易であり、アミノ酸配列や構造が報告されているウシ血清アルブミン(BSA)を不斉反応場として用い、2-アントラセンカルボン酸(AC)を基質に選択した。BSAとACは基底状態において相互作用していることがCDスペクトルから明らかになった。実際にBSAを不斉反応場に用いてACの[4+4]光環化二量化反応を行ったところ、反応は良好に進行し最高の41%のeeが観測された。この値は二分子光反応系で最高の値である。 本研究によりDNAやBSAがキラル増感剤/反応場として機能することが初めて明らかとなり、今後より広範な不斉光化学反応への適用ならびにDNA・タンパク質の新規機能材料としての発展が期待される。
|