申請者らは、これまで、ラジカル重合系の電子スピン(ESR)共鳴法を用いた研究を行い、色々なビニルモノマーの生長末端の観測に成功し、末端の構造、電子状態に新たな情報を提供する事ができた。現在、生長速度定数の決定に目を向けた研究をている。 今年度は、メタクリル酸t-ブチルおよびベンジルの生長ラジカルの観測と生長速度定数の決定を行った。メタクリル酸t-ブチルでは、測定温度は-30から90℃で行い、定常状態を確認した後、生長速度定数を決定した。その結果を基に、メタクリル酸t-ブチルの生長速度定数(kp)に対し、kp=(3.40±0.4)x10^6Exp(18.0±1.0)なる関係がある事を明らかにした。さらに、このデータをPulse-1aser-Polymerization法によって得られたデータと比較した処、その差は明らかに誤差の範囲を越えていた。分子量分布を調べてみると、メタクリル酸t-ブチルの場合には、低メタクリル酸t-ブチル温重合で得られるポリマーの中には分子量1000以下のオリゴマーが存在していた。オリゴマーのkpは大きいため、低温での速度定数が大きく見積もられ、見かけの活性化エネルギーが下がったものと推定した。一方、低温でもオリゴマーの生成量が少ないメタクリル酸ベンジルの場合には、得られたkp値は、PLP法で得られたkp値と誤差内で一致していた、今年度の研究成果は、ESR法で信頼のできる成長速度定数を得るためには、オリゴマーの生成が無視できる様な条件下での測定が必要であるという筆者の作業仮設を裏付けるものである。 その他、生長末端の動的挙動で新たな知見をえた。
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