研究概要 |
本研究では、キラルネマチック液晶を溶媒とする不斉異方性反応場でアセチレンの重合を行い、高分子鎖およびそれらの束であるフィブリルがらせん構造をもつ高導電性のポリアセチレン薄膜を合成した。 走査型電子顕微鏡(SEM)および原子間力走査型プローブ顕微鏡(SPM)観察により、得られたポリアセチレン薄膜はそのフィブリルがそれぞれR-体とS-体のキラルネマチック液晶のらせんのねじれ向きと同じ方向に巻いていることを確認した。しかも局所領域において配向していることが明らかになった。さらに、円偏光二色性法(CD)スペクトルの測定において、共役ポリエンにおけるπ→π^*遷移の波長領域に正と負のコットン効果が起こることより、共役ポリエン主鎖そのものがヘリカル構造をしていることを示された。さらに,ヨウ素ドープ後のCDスペクトルからも共役ポリエンにおけるπ→π^*遷移の波長領域に正と負のコットン効果が起こることより、共役ポリエン主鎖そのもののヘリカル構造が保持されていることを明らかにした。これらの結果は、キラリティーをもたないモノマーであっても不斉異方性反応場で重合することにより、ヘリカル構造を持つ高分子を合成することができることを示唆している。トランス含有率は80〜90%で、ヨウ素ドープ後の電気伝導度は約1500〜4300S/cmと高い値を示すことから、ヘリカル構造を持つポリアセチレンは分子ソレノイドとして応用することが期待できる。さらに、それぞれ左巻きと右巻きのヘリカル構造持つポリアセチレンから互いに逆の誘起磁極が生じることも予想される。ポリアセチレンのフィプリルのねじれの向きはキラルネマチック液晶のそれと一致することがわかった。キラリティーをもたないアセチレン分子でも不斉異方性反応場で重合することにより、共役系主鎖が左右どちらか一方向にねじれたヘリカル構造を付与できることを示した。キラルネマチック液晶に基づく不斉異方性反応場はここで述べたポリアセチレンの構造規制に留まらず、その他の重合反応あるいは広く化学反応における配向制御にも利用できると期待される。
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