ポリイミド薄膜のISTS測定を行い、得られたシグナルからポリマー薄膜のヤング率などの力学物性、ダンピング率などの構造緩和物性、熱拡散定数などの個体物性を求めた。ヤング率はピロメリット酸基のような剛直構造をもつものの方が高い剛性を持つが、ダンピング率は必ずしもポリマー主鎖の剛直性にはよらないことが分かった。これは構造緩和が局所的な揺らぎによるためであると考えられる。 またポリマー薄膜のヤング率は1ミクロンから数ミクロンに渡り強い膜厚依存性を示した。これは、ポリマー表面では分子鎖の自発的配向が誘起されるために、薄膜であるほどその影響を受けて剛性が高くなるものと解釈できる。従来の引っ張り試験等では技術的にこのような薄膜の測定は出来ないが、過渡回折格子法を用いることによりはじめて薄膜系での力学物性を正確に求めることができた。そして我々の方法では従来の引っ張り試験における「すべり」や「クリープ」という間題がないため、分子固有の力学物性を反映しているものと思われ、高分子物性の新しい測定法として意味深いことを示した。 ポリマーフィルムの光架橋反応に伴う物性変化をISTSを用いて測定したところ、ISTSシグナルはポリマーのゲル化よりもかなり早い段階から変化していることが分かった。これはポリマーの架橋密度が数万〜数百万分の一程度においてすでにポリマーのミクロ環境が違ってきていることを表している。 ISTSはポリマー物性や、反応に伴う物性変化を非破壊、高速、空間選択的にかつ定量的求められ、従来の方法では分からなかった物性を解明することができた。
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