固体表面近傍では高分子鎖は基板の影響をうけてコンホメーションや配向がバルク状態とは異なることが様々な手法を通じて検証されている。通常そうした研究では、無機固体材料表面や延伸ポリマー膜表面等の固い表面での高分子鎖の振る舞いが観測対象となっている。それでは、柔軟な有機分子でしきつめられたブラシ状表面では高分子鎖はどのように振舞うのだろうか?無機固体表面では、二次元の幾何学的束縛や原子レベルに近いごく微視的な領域でのエピタキシャル的な構造情報転写が想定できるが、分子ブラシのある柔軟表面では、柔軟部位同士のInterdigitate等の分子レベルでのトポロジカルな因子を含む協同効果が期待でき興味深い。分子ブラシ表面を構築するには、有機分子や高分子の水面単分子膜(Langmuir膜)あるいはそれを基板上に1層移しとったLangmuir-Blodgett法を利用することが膜の再現性の点で有利である。 本研究はこうした着想により、水面単分子膜やLB膜で構成された分子ブラシ状の柔軟な界面での高分子鎖の挙動に係る知見を得る目的で進められた。 研究の遂行によって得られた主たる結果は以下の通りである。 1)<脂肪酸単分子膜>単分子膜の圧縮相転移(結晶化)がPDHSの結晶化を誘起する新しい相関現象を見出した。 2)<液晶分子単分子膜>4'-pentyl-4-cyanobiphenyl(5CB)液晶分子を用いることで、全く疎水的であるPDHSの理想的な単分子膜が得られることを見出した。水面にて疎水性高分子の単分子膜形成が明確に実証された最初の例である。 3)<フォトクロミック単分子膜>単分子膜中でのアゾベンゼンの光異性化反応により、PDHSの結晶化速度が顕著に制御できるとともに、偏光照射によって主鎖配向を制御できることを見出した。主鎖配向を光で明確に制御できることを示した最初の例である。 こうした着想とアプローチにより、高分子超薄膜の研究領域における新たな視点や新たな高分子鎖の操作法を提出できた。
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