ポリペプチドは、溶液中においてα-ヘリックス、ランダムコイル、βシート構造などの異なる二次構造を取ることは古くから知られている。また、これらの二次構造は、温度、溶媒及び圧力などによって変化する。ポリペプチドの中でもポリアスパルテート[-NH-CH(CH_2C(O)OR)CO-]は、側鎖Rの構造に依存して右巻き、または、左巻きヘリックスを取る。最近、我々はポリ(β-フェネチルL-アスパルテート)(PPLA)の主鎖α-ヘリックスが温度や溶媒により反転する現象を見出し、分光学的手法によりPPLAのヘリックス-ヘリックス転移前後での側鎖コンホメーション解析を行った結果、側鎖コンホメーション変化に誘起された協同的分子内転移であることを明らかにしてきた。我々は本研究において、特異的なヘリックス転移現象を利用したPPLA分子デバイスの構築を目指し、化学修飾したPPLAの自己組織化構造の解析と機能性の検討を目的とした。研究の第1段階で、らせん反転を起こさないポリ(γ-ベンジル-L-グルタメート)(PBLG)とPPLAのジブロック及びトリブロック共重合体を合成し、らせん反転の様式についてNMR及び円二色性測定により検討した。N端側が自由なジブロック共重合体とC端側が自由な化合物の比較から、らせん反転はN端側から優位に起き、完全に巻き変えることが明らかになった。また、鎖長の異なる共重合体の結果から、転移温度や左巻きらせんの割合は組成比にほとんど影響されないことがわかった。PBLGとさらにらせんが剛直なポリアラニンとの共重合体のヘリックスーコイル転移の検討では、希薄溶液においては転移様式がPBLGと同様であったが、濃厚液晶状態では末端の影響を見出した。ポリエチレングリコール(PEG)が片末端に結合したPPLAでは、分子量が低いと右巻きと左巻きの混在状態であり、PPLAの分子量が高くなり鎖長が長くなると完全に右巻きらせんが形成されることがわかった。本研究において、機能化に関する基礎的なデータは本研究の2年間で集積できたものと考えられる。得られた成果はらせん反転現象の機構を分子論的に検討した結果であり、PPLA分子デバイスの分子設計に役立つものである。今後、PEG化PPLAの集合状態とらせん反転挙動の関係を検討し、さらに研究を発展させる予定である。
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