研究概要 |
本研究は、酢酸菌により作り出されるセルロースのナノ紡糸過程を明らかにするを目的とする。昨年度に引き続き研究を行い得られた成果の概要を下記に示す。 1.ビデオマイクロスコピーシステムを用い、酢酸菌が約50nm幅のリボン状のセルロースを排出していく様子をリアルタイムで観察し、その排出速度を決定する事が出来た。用いた菌株にはrough colonyとsmooth colonyが存在する。rough colonyの場合はリボン状セルロースの排出速度は3.4μm/minで、smooth colonyの場合は2.4μm/minであった。この違いは、生成されるセルロースゲルの高次構造の違いに反映されていると推定される。 2.酢酸菌を28℃の標準培養条件下で培養すると、菌体の長軸の方向に右巻きにねじれたリボン状のセルロース集合体が押し出されるが、smooth colonyを用いて4℃で培養すると、多数のstrand状のセルロースからなる帯状集合体が菌体の長軸に垂直な方向に押し出されること、またstrandの数の異なる「密な構造」と「粗な構造」が生成する事を明らかにした。制限視野電子回折測定を行った結果、「密な構造」の場合はセルロースIIの結晶に対応する3つの赤道反射(1-10,110,020)が観測できるが、「粗な構造」の場合は結晶の反射は観測できなかった。 3.培養液中に排出されてきたセルロースの構造をそのまま保持し、乾燥によるひずみなどの影響をさけるために、never-dryのセルロースを-179℃の液体プロパン中で急速凍結して、ガラス状態の氷の存在下での構造を観測することを試みた。そのためにクライオトランスファーおよびクライオTEM(400kV極低温高分解能電子顕微鏡)を用いて4Kで測定した。しかし、氷の層を非常に薄くしないと電子線が透過せず、また試料のコントラストが低いため測定が非常に困難であることが判明した。試料作製方法を十分検討する必要があることがわかった。
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