本研究では、光強度の勾配を用いることにより二成分高分子混合系の相分離を引き起こし、定常非平衡条件下における高分子の臨界挙動を観測・解析した。まず、下限臨界共溶温度(LCST)を有するポリビニルメチルエーテル(PVME)とポリスチレン誘導体(PSS)のブレンドにおいて、以下に述べる二つの実験を行った。さらに、温度勾配によって誘起した相分離の実験も行い、比較.検討した。 平成11年度:「光強度の勾配下における相分離」: 上記したPSS/PVMEブレンドを用い、試料に線形勾配の紫外光を照射し、相分離を誘発し、その動力学について検討した。相分離がこのTranslational Invarianceの条件を満たさない実験では得られた結果は以下の通りである。 ●光強度の勾配に沿って、強度が強い側(上流側)では、等方性の相分離構造が得られ、同一の光強度を用いた均一光強度の照射の場合と比べて、相分離はほぼ同様な動力学に従って進行することがわかった。さらに、下流側(光強度の弱い側)では、相分離がより速く進み、弱異方性のモルフォロジーが得られた。すなわち、上流で早く生成した不安定性が下流の方へ伝播していくことが観測された。 ●この特異的挙動は光強度の勾配のみに依存し、光強度の絶対値にはほとんど見られなかった。 平成12年度:「直線偏光によって誘発されたポリマーブレンドの相分離」 光勾配の実験にに対比してRotational Invarianceの条件が満たされない場合の相分離を実現するため、直線偏光で選択的に高分子鎖にペンダントしたスチルベンの光異性化反応を誘起して、相分離を引き起こした。結果として、 ●直線偏光の照射下で励起光の電場(E)にほぼ垂直するモルフォロジーが得られた。また、その成長速度は(E)との相対的方向に依存して、垂直の方向では反応収率が小さいため、相分離の構造が成長できないのに対して、平行方向では構造の成長が見られた。 ●異性化反応の励起光強度依存性の影響を補正して、相分離の時間発展に関する普遍性が見られなかった。この結果は、異なった方向へ伝播する不安定なモードが互いに干渉することを示唆している。 一方、同じポリマーブレンドを温度勾配下で相分離させる場合、化学反応による長波長のゆらぎの抑制効果がないため、広い範囲のモルフォロジー(共連から「島・海」)が見られた。このようにしてサブミクロンからミクロンにかけて共連続から二相島海の傾斜構造を有するポリマーブレンドを本研究で提案した方法によって設計できることがわかった。
|