研究概要 |
ポリアクリロニトリル(PAN)は、立体規則性の悪いアタクチック試料(at-PAN)でも結晶化する点において特異な高分子である。また、汎用PANはat-PANで〜ちり、そのフィルムあるいは繊維は一般的にパラクリスタル的な一相構造を有するとされてきた。しかし、at-`PANは結晶化条件によっては分子鎖折れたたみ構造を有するラメラ晶を形成するので我々はこのような定説に疑問を持ち、(1)繊維構造に与える初期構造、延伸法、延伸温度、延伸比の効果、および(2)ラメラ晶の熱処理に伴う厚化現象について検討した。その結果、at-PAN繊維は一般にはパラクリスタル的な一相構造を有するが、特定の条件下(初期試料の作成条件、延伸温度、延伸比)で作成した繊維は結晶/非晶の二相構造を持つことを明らかにした。また、at-PANのラメラ晶も他の結晶性高分子と同様に熱処理によって厚化することもわかった。 次に,立体規則性が延伸挙動および延伸物の構造と物性に与える効果を検討した。at-PANおよびイソタクチック・PAN(iso-PAN)の延伸条件の最適化を試みた結果、高分子量試料を70倍に延伸することができた。これらの超延伸物は、以前には報告されたことのない程の高い分子配向と力学物性を示した。両PAN延伸物は主鎖のコンフォメーションの差を反映して幾つかの異なる挙動を示した。at-PANは約150℃に結晶/結晶1次転移(斜方晶/六方晶転移)を示し、この転移温度以上で超延性を示したが、iso-PANは結晶相転移を示さず、100℃辺りに存在する結晶分散温度以上で超延性を示した。また、at-PAN繊維とiso-PAN繊維は著しく異なる応力/歪曲線を示した。この理由は、at-IPAN繊維に張力を加えると分子鎖のコンフォメーションが変化するからであることが分かった。
|