船体あるいは海洋構造物などの通常の構造解析においては、応力分布、変形、塑性と座屈などを伴う最終強度の評価などが解析目標となるが、座礁、衝突、転覆など、実際の重大事故においては、疲労および破断などの材料損傷および破壊が重要な役割を果たしている。しかしながら、日常的な非線形構造解析ツールとして使われる有限要素法汎用ソフトなどにおいても、塑性、座屈などのいわゆる材料および幾何学的非線形性に比し、材料損傷、破壊などの考慮は極めて不十分な段階に留まっているのが現状である。船舶・海洋工学分野においては、鉄鋼は言うまでも無く、新合金、プラスチック、セラミックス、コンクリート、氷など、種々の材料・固体から成る構造物の多様な環境下における合理的な極限強度評価法の確立が求められている。 本研究では、これらの固体・構造強度問題に対し、連続体損傷力学を援用した非線形構造解析法を確立するための基礎研究を行ない、より合理的な解析的強度評価手法の確立に寄与することを目的とした。研究成果の詳細は後述するが、主要な成果は次の2点である。すなわち、(1)熱荷重を受ける構造要素の熱弾塑性損傷解析法の確立と有用性の実証、(2)予損傷鋼材の数値材料試験法の開発と有用性の実証である。前者においては、溶融亜鉛めっきを受ける板桁橋梁部材および送電鉄塔部材の亜鉛脆化割れ挙動について、損傷力学モデルによる有限要素解析を行ない、力学的観点からの現象を解明した。また、熱衝撃・熱サイクルを受ける傾斜機能材料に対する損傷解析を行ない、材料設計における有用性を指摘した。後者においては、静的・動的引張試験、疲労SN曲線により同定した損傷力学モデルを用いて、予疲労・予ひずみなどの予損傷を受けた鋼材の動的引張挙動をシミュレートし、予損傷鋼材に対する材料試験の数値的代替が可能であることを示した。両者ともに計算固体力学の新分野への展開であり、材料損傷および破壊を考慮した構造解析法開発への第1歩を印すものと考えられる。
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