北アルプス穂高岳周辺に分布する滝谷花崗閃緑岩は、世界でもっとも新しい露出した花崗岩体体であり、その年代は1.0-1.4Ma(黒雲母・K-Ar法)である。この花崗岩中から石英を単離し、所定の前処理を行ったのち熱発光を測定した。また電子スピン共鳴法により石英中に含まれるAlとTiに起因する電子スピンを測定し、熱発光挙動との関係について検討を行った。さらに、ガンマ線による照射を行い、熱発光曲線の変化についても検討を加えた。この結果、滝谷花崗岩中の石英からは赤色(約650nm)と青色(450nm)付近に熱発光を示すことが明らかとなった。従来第三紀や白亜紀の花崗岩中の石英の熱発光はきわめて微弱であるとされていたが、滝谷花崗岩の石英は第四紀の溶結凝灰岩中の石英に匹敵する発光強度を示した。これは、滝谷花崗岩が固結から上昇までの時間がきわめて短く、岩体の冷却が急速の起こったため、石英中の格子欠陥量が第三紀等の花崗岩に比べて多いものと推定される。このことは電子スピン共鳴の測定からも裏付けられ、発光強度の増加とともにとAlやTiに起因する電子スピン共鳴信号が増加する傾向が認められる。 滝谷花崗岩全域にわたり試料を採取し、岩体の部位による発光挙動の差異について検討した。その結果、岩石の全岩化学組成と熱発光感度や発光強度には相関があること、岩体の部位により発光量および電子スピン共鳴信号強度は系統的に変化することが明らかとなった。今後、これらの基礎的知見に基づいて花崗岩中の石英の熱発光から、岩体の熱履歴や地熱ポテンシャルの評価方法の確立を推進する。
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