飛騨山脈、穂高岳周辺に分布する滝谷花崗岩体中の石英の熱発光について研究を行った。滝谷岩体は、K-Ar放射年代が1.5Ma前後を示す第四紀花崗岩体であり、急速な上昇の結果、地表に露出する世界で最も若い花崗岩体とされている。本研究では、滝谷岩体の露出域のほぼ全域から試料を採取し、岩石化学的特徴、熱水変質活動、岩体の冷却過程、岩石き裂の形成過程等と石英の熱発光挙動ならびに電子スピン共鳴(ESR)との関係について検討を行った。 従来、花崗岩中の石英の熱発光が報告された例はきわめてまれであった。しかしながら滝谷岩体中の石英は約330℃で最高強度を示す赤色TLが明瞭に観察され、さらにAl中心およびTi中心のESR信号を検知することが可能であった。 年間線量は、TLD素子を1ヶ月以上埋設して計測するとともに、試料全岩のK含有量から求めた。放射線照射によるTL強度とESR信号の変化、すなわち生長曲線法から、蓄積線量を算出し、岩体のTLおよびESR年代を得た。その結果、年代値は試料により異なり、およそ40〜280Kaの範囲にあった。またTL年代とESR年代を比較した結果、Ti信号のよるESR年代とTL年代はほぼ一致するが、Al信号のESR年代はこれらより若くなる傾向が認められた。また、熱水活動により、これらの年代は若返ることを明らかにした。 これらの研究の結果、第四紀花崗岩体の冷却史の最末期を規定する年代計測法を開発することができ、またTL、ESR年代の差異を比較することにより、地熱活動の規模や地域を評価する新たな地熱ポテンシャル評価方法を明らかにした。
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